遷延性意識障害患者の逸失利益が認められない場合とは?
交通事故による遷延性意識障害患者の示談交渉の中で、大きなウェイトを占めるものの一つに逸失利益があります。
逸失利益を簡単に言うと、「交通事故で遷延性意識障害にならなければ、稼げていた給料などの収入」というもので、サラリーマンであれば給与の事を示します。
交通事故で後遺症が残るケースでは、逸失利益の割合が問題となる事もありますが、遷延性意識障害の場合、仕事をすることは不可能であるため逸失利益は100%で計算されます。
『単純計算で月の給与を30万円もらっていた40歳の男性が遷延性意識障害となった場合には、30万円×12か月×25年(定年退職が65歳)=9000万円になる』と思いますが、実際にはもっと複雑になります。
逸失利益の計算は、基礎収入額×労働能力喪失率×対象年数の係数から算出されるのですが、基礎収入額(例の場合年収360万円)はあっているのですが、労働能力喪失期間は67歳までとする判例がほとんどです。
しかも、残りの27年間分の9720万円を逸失利益として丸々請求できるわけではありません。
仮に9720万円を保険会社が支払い、家族が30万円ずつ使えば計算上では27年でなくなりますが、給料を全額先払いしているので銀行に預金をしておけば複利で増えていくため、実際には27年以上分になってしまいます。
そこで出てくるのがライプニッツ係数というもので、「一定の%の複利計算で増える利息を差し引いて一括支払いする金額を計算できる係数」として、判例でも使われています。
40歳のライプニッツ係数は14.643ですので、360万円×14.643=5271万4800円が逸失利益となります。
主婦や学生でも逸失利益はある
サラリーマンのような給与所得者の場合には、逸失利益が比較的計算しやすいのですが、主婦や学生などの場合は収入がないため、逸失利益がないか著しく低い金額を提示してくる保険会社もいます。
しかし、判例では専業主婦や学生であっても、厚生労働省発表の『賃金構造基本統計調査』(賃金センサス)によって、年齢や学歴に応じた収入を指標として逸失利益が計算されます。
もし、35歳の専業主婦が遷延性意識障害となった場合は、35~39歳女性の平均賃金センサス381万9700円×ライプニッツ係数15.803=6036万2719円が逸失利益となるため、かなり大きな金額になるというのが分かると思います。
ただし、収入が預金の利息であったり、所有不動産の家賃などのいわゆる『不労所得』であった場合には、交通事故後に遷延性意識障害となったとしても収入がなくなったり減るわけではないため、逸失利益は認められません。
また、年金に関しても遷延性意識障害でも支給は続くため、逸失利益が認められない事がほとんどです。
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交通事故で遷延性意識障害になった場合、保険会社は遷延性意識障害患者の余命を平均余命より短く計算して賠償金額を計算するので争点になりやすい。
被害者が遷延性意識障害となった交通事故の示談では、生活費控除、在宅介護の蓋然性、余命制限、定期金賠償の4つが代表的な争点となる。保険会社の主張に対する反論の準備が必要。
遷延性意識障害における逸失利益を算出するにあたって、被害者の余命年数や生活費が問題として取り上げられやすい。場合によっては生活費が控除されるなど、賠償金が安くなる可能性がある。
交通事故の被害者が遷延性意識障害となり、支払われる賠償金を分割で受け取る定期金賠償は、逸失利益で中間利息を控除しないので賠償金の総額が増える。
交通事故に遭い遷延性意識障害となった場合に賠償金を分割で受け取る定期金賠償は、逸失利益で中間利息を控除しないので賠償金の総額が増える。