遷延性意識障害の示談交渉ではどんなことが争点となるの?
交通事故で遷延性意識障害となった場合の保険会社との示談交渉において、特に争点になりやすいのが、「生活費控除」「在宅介護の蓋然性」「余命制限」「定期金賠償」の4点です。
生活費控除は、逸失利益の算出に関連します。
遷延性意識障害では寝たきりの状態になり、労働能力を失います。
そこで、賠償金のなかに「交通事故に遭わなければ被害者が将来得られたはずの収入」を含めることができます。
保険会社側は遷延性意識障害となった被害者に対して、死亡事故の場合と同じように「寝たきりの状態なのだから食費や被服費といった生活費はほとんどかからない」として、示談交渉では生活費を控除して逸失利益を算出すべきと主張してくるのです。
このような主張は裁判で認められない傾向ですが、なかには一定額を認めた判例も存在しており、しっかり反論していく必要があります。
在宅介護をする場合の賠償金額は、施設介護の場合と比べると2倍ほど多くなるため、保険会社側は示談交渉で「施設介護にすべき」と主張してくることがあります。
これが在宅介護の蓋然性です。
反論するには、自宅介護に必要な人的・物理的環境が揃っていることを立証しなければなりません。
その時点では施設で介護していても、症状が落ち着いてきて「自宅介護に切り替えたい」と考えるケースは多いものです。
いったん施設介護での賠償金を受け取れば、改めて在宅介護分の費用を請求することはできないため、慎重な検討が求められます。
余命制限、これに基づく定期金賠償も争点に
余命制限とは、賠償金を抑えるために「遷延性意識障害の方の平均余命は健常者より短い」という保険会社側の主張を指します。
平均余命の違いで賠償金額が1000万円単位で違ってくるため、保険会社側はデータや医師の意見書などを揃えて争ってきます。
余命制限は一般的には認められませんが、「症状固定から12年」といった余命制限を認めた判例が存在し、被害者の尊厳を守るべく反証材料を準備しておくようにします。
遷延性意識障害患者の余命が短めという説にもとづき、賠償金の総額を抑えようとする目的で、将来発生するはずの損害賠償金を一度に支払うのではなく、定期的に支払う「定期金賠償」を保険会社が示談交渉で主張してくることがあります。
裁判員のなかでも「被る現実の損害により近くなる」という考えから、被害者自身が一時金賠償で請求していても、定期金賠償を命じた判例があります。
しかし定期金賠償では、保険会社が経営破綻した場合のリスクや、裁判後もずっと加害者・保険会社との関係を続けなければならないストレスが考慮されておらず、被害者側としては受け入れがたい提案です。
これらの争点に対する法的な準備を整えるには、交通事故の事例や判例に精通した弁護士の協力なしでは難しいでしょう。
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遷延性意識障害における逸失利益を算出するにあたって、被害者の余命年数や生活費が問題として取り上げられやすい。場合によっては生活費が控除されるなど、賠償金が安くなる可能性がある。
交通事故により遷延性意識障害となった場合には逸失利益が認められることが多いが、不労所得や年金に対しては逸失利益が認められないため注意が必要である。
交通事故により負った遷延性意識障害の示談をする場合、将来的な介護も考えて交渉しなければいけないので、弁護士に相談をして示談交渉を進めるとよい。
交通事故の示談交渉で保険会社から遷延性意識障害患者の余命は10年ほどとの主張がなされる時があるが、裁判所は平均余命を採用している。
交通事故の被害者が遷延性意識障害となり、支払われる賠償金を分割で受け取る定期金賠償は、逸失利益で中間利息を控除しないので賠償金の総額が増える。