年金受給者だった父の死亡事故。逸失利益は認められる?
【質問】
3カ月前に、父が死亡事故に遭いました。
母と2人の年金暮らしで、生活費は父の年金に頼っていた状態でしたが、父の死亡事故で父の年金支給がなくなり、母の国民年金分だけになったため、母も生活に困っています。
母は、父が亡くなって心痛がひどいだけでなく、将来的な不安が大きすぎて寝込んでいる状態です。
最近になって加害者の保険会社から、示談交渉の連絡があったのですが、死亡事故の慰謝料と葬儀代の60万円は支払うが、父親の年金分の補償はできないと言われました。
こちらとしては、父の年金があったからこそ両親の生活が成り立っていたのに、死亡事故で年金が無くなったのだから、逸失利益として認めてもらわないと困ります。
年金受給者の死亡事故の場合は、年金分の逸失利益を保険会社に認めさせることは出来るのでしょうか?
【回答】
年金に関しては、死亡事故の被害者が保険料の負担をしていた場合には、逸失利益と認められます。
代表的なものは国民年金や厚生年金、障害者年金などですが、企業年金もこれに含まれます。
遺族年金などは保険料の支払いが発生していないため、逸失利益として認められません。
そのため、年金の支給額が年間240万円あれば、逸失利益の計算の基準値は240万円になります。
基準値としたのは、年金が逸失利益と認められても、年金の全額が逸失利益として認められないからです。
逸失利益の計算には、生活費控除と余命が関係してきます。
生活費控除は、「死亡事故の被害者自身の生活費を、被害者の年収から差し引く」というものです。
逸失利益は残された遺族の生活費の補償が主な役割なので、死亡した被害者の生活費は含まれないということになります。
生活費控除は、一家の大黒柱で被扶養者が1人の場合で40%、被扶養者が2人以上で30%となります。
夫婦2人で夫が亡くなった場合は、「一家の大黒柱で被扶養者が1人の場合」にあたり、普通ならば40%の生活費控除になります。
しかし、年金受給者の死亡事故の場合は、生活費控除の割合が大きくなるのが通常で、50%~60%となることが多いです。
また、逸失利益は、「(収入 ― 生活費控除)×余命」で計算されるのですが、年金受給者の場合は余命が短いことが多く、死亡事故の被害者が平均寿命を超えている場合には、余命が1年・2年と極めて短いこともあります。
そのため、死亡事故での逸失利益が認められても、生活費控除が引かれ余命が短い場合には、100万にも満たないということもありますので、注意が必要になります。
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生活保護者の死亡事故の場合は無職として扱われるため、逸失利益が認められないが、交通事故がなければ再就職していた可能性が高い場合には、逸失利益が認められることもある。
交通事故の被害者が身元不明であっても、刑事罰や行政罰は通常と変わらずされ、損害賠償請求は、被害者の身元が判明して請求されない限りは、時効により請求権が消滅する。
交通事故により死亡した被害者が複数いて、その請求権が1人の遺族になる場合には、示談交渉がかなりの重責となることがあるため、弁護士に依頼をして保険会社と交渉してもらう方が良い。
損害賠償金に関してはもともと非課税との考え方であるため、交通事故の逸失利益の計算には、 税金が引かれる前の額面の収入が用いられる。
ひき逃げは交通事故の中でも悪質とされており、保険会社との交渉において保険金の増額を訴える要件としても認められる。