遷延性意識障害となった場合、家族に対する慰謝料がある?
死亡事故の被害者家族に対しては、被害者本人に対する死亡慰謝料のほかに、配偶者や子といった家族に対しての慰謝料も請求することができます。
ですが、被害者本人の慰謝料と比べて配偶者で200万円、子で100万円程度であるため、交通事故の保険金の中では少なめと言わざるをえません。
死亡事故で被害者家族に慰謝料が支払われるのには、民法第711条で「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない」と規定されているからです。
ここで問題となるのが、民法711条では「他人の生命を侵害した者は」と前置きがされているため、遷延性意識障害のように生命の侵害はないが、重度の障害の場合には慰謝料を請求できるか否かということです。
ここでまた出てくるのが、民法709条と710条です。
709条と710条は解釈の仕方によっては、死亡事故以外の場合でも、家族に対して固有の慰謝料請求が認められるとも受け取れるため、遷延性意識障害の患者家族の場合にはこの解釈に基づき慰謝料を請求することがあります。
慰謝料は固定的なものではない
しかし、遷延性意識障害患者の家族に対する慰謝料は絶対的に支払われるものではありませんし、金額も普遍的ではありません。
そもそも、保険会社は少しでも支払う保険金を減らそうとするため、家族に対する慰謝料の支払いは払いたがらない傾向があります。
交通事故の示談に関して相談に来られた人の中には、「家族に対しても慰謝料が支払われるとは知らなかった」と言われる方も多いくらいです。
しかし、裁判所の判例を見ると、死亡事故に関しては家族に対して慰謝料を支払うように命じるものがほとんどで、死亡事故により他の家族の介護が生じるなどの特段の事情がある場合には、慰謝料の増額の判決が下りたものもあります。
遷延性意識障害の場合、意識の回復をする患者の割合が少なく、回復したとしても重大な障害が残る場合も少なくありません。
また、遷延性意識障害の患者の寿命も健常者と同じとみなす判決からも、交通事故後何十年間も患者が生存するケースもあり、介護が長期化する可能性も考えられます。
そのため、死亡事故と同じく家族に対しても慰謝料が支払われるのが順当であると考えられますが、死亡事故の場合の慰謝料金額と同じでよいかというのは議論の余地があります。
「命は助かっているのだから、少なめでも良い」「本人が意思表示できず、人生を無為に過ごさなければいけないため、死亡事故と同等でよい」「患者の世話など、家族に対する負担が死亡事故よりも大きいので、慰謝料も増額すべきだ」と様々な意見があります。
心情的にみるとどれもが正しい主張であると思えますが、判例の多くは死亡事故に準じたもしくは少ない金額になっていると、覚えておく方が良いでしょう。
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家族が交通事故に遭って遷延性意識障害となり、示談交渉の際に「遷延性意識障害患者の余命がそうでない人より短い」と保険会社が主張しても、屈せずに弁護士に相談しながら正当な賠償金を請求すべきである。
交通事故の被害者が遷延性意識障害の場合、将来の治療費が莫大である事と、加害者側の一方的な主張が通り、被害者側が不利になる事が多いので、弁護士への相談は必須ともいえる。
交通事故で遷延性意識障害になった場合、保険会社は遷延性意識障害患者の余命を平均余命より短く計算して賠償金額を計算するので争点になりやすい。
遷延性意識障害となった交通事故の加害者に裁判を起こす利点は、損害賠償金などの増額があるが、欠点もあるため弁護士の相談の上裁判をするか決めた方が良い。
遷延性意識障害患者の在宅介護を保険会社や裁判所に認めさせるためには、無理のない在宅介護のプランを立てる必要がある。