遷延性意識障害における余命の論議について
遷延性意識障害の人の余命は、そうでない人より短いという議論があります。
交通事故で遷延性意識障害を発症すると、加害者側の任意自動車保険の担当者と損害賠償金について話し合うことになりますが、保険会社は、遷延性意識障害の人の余命を短く見積もって、逸失利益や後遺障害慰謝料を計算することがあるのです。
遷延性意識障害を発症した後の経過は次のように分類できます。
・死亡
・悪化
・現状維持
・改善
・意識回復
遷延性意識障害の死因でもっとも多いのは肺炎で、呼吸器感染症や脳梗塞も死因の上位に挙げられています。
遷延性意識障害の人の予後でもっとも多いのが現状維持です。
しかし、症例は少ないながら意識が回復する人がいるのも事実です。
症状が悪化するか、現状維持か、それとも意識が回復するかというのは大きな違いですが、発病の原因や、脳波の状況、脳の血流などが関与しているので、発症後、どのような経過をたどるかは、一概には言えません。
しかし、脳外傷が原因の遷延性意識障害は、短期に意識回復する割合が高いという報告があります。
交通事故で遷延性意識障害になった人は、脳外傷が発病の原因なので、意識が回復する可能性がゼロではないということです。
その一方で、心肺停止状態で遷延性意識障害になった人、一酸化炭素中毒者は、遷延性意識障害から意識回復する割合が低くなるとされています。
裁判所が判断する余命は?
保険会社が「遷延性意識障害患者の余命は、そうでない者よりも短い」と言う根拠は、実は過去に最高裁判所が出した判決にありました。
最高裁が「植物状態は余命が短い」という内容の判決を出したため、その判決内容にのっとって、保険会社が余命短縮について堂々と主張するようになったのです。
しかし昨今、この流れを変える判例が相次いでいます。
名古屋地裁では、加害者側が、遷延性意識障害を発症した21歳の被害者に対する賠償金の計算は余命10~15年として計算するべきだという主張に対し、余命55年で計算するよう裁判所が命じ、和解が成立しました。
この流れが続けば、遷延性意識障害患者の余命は短いという主張を否定して、正当な賠償金を得ることができます。
弁護士は、常に最新の判例を学び、問題解決に役立てています。
過去には、遷延性意識障害患者は余命が短いという定説が主流でしたが、これからは、そのような主張が通らなくなってくるかもしれません。
交通事故に詳しい弁護士と相談しつつ、紛争解決に向けて一歩を踏み出してください。
この記事を読まれた方にオススメの情報5選
交通事故の示談交渉で保険会社から遷延性意識障害患者の余命は10年ほどとの主張がなされる時があるが、裁判所は平均余命を採用している。
交通事故により負った遷延性意識障害の示談をする場合、将来的な介護も考えて交渉しなければいけないので、弁護士に相談をして示談交渉を進めるとよい。
遷延性意識障害となった被害者は意識不明のため主張ができず、加害者の言い分に沿った過失割合での示談成立になりがちなため、弁護士と相談してきっちり反論する必要がある。
家計の中心である人が遷延性意識障害となると、患者家族の生活費がなくなり困窮することがある。そのような場合には仮渡金の請求を加害者側にするとよい。
遷延性意識障害の示談金は数千万円になる事が多いが、保険会社が提示する金額は判例よりもかなり低いため、示談前に示談内容を弁護士に確認してもらうとよい。