交通事故による不完全脊髄損傷の危険性について
脊髄損傷は損傷個所や損傷度合いにより、現れる後遺障害の程度が違います。
脊髄は首から尾てい骨まで通っており、基本的に脊髄損傷が起こった個所よりも下の身体個所に障害が現れるため、首に近ければ近いほど障害の範囲が広くなります。
また、脊髄は一番太い所で小指ほどの太さで、下に行くほど細くなっています。
脊髄は1本の神経伝達組織ではなく、神経伝達の管がたくさん集まっているような構造になっています。
そのため、脊髄が完全に切断される完全脊髄損傷では、脊髄損傷個所よりも下に運動麻痺や感覚麻痺が現れます。
しかし、脊髄の一部分だけが損傷する不完全脊髄損傷では、その損傷した脊髄個所が担っている神経伝達のみに障害が現れます。
例えば、触感の神経伝達のみの脊髄損傷であれば、麻痺症状が現れず普通に運動は出来るものの、足を触られても『触られている』と知覚できなくなります。
触覚以外にも『温度が感じられなくなる』、『痛みを感じない』など、様々な神経障害が起こります。
不完全脊髄損傷の危険性
「触感や温度・痛覚が麻痺するだけならば、歩けなくなるよりマシなのでは?」と思うかもしれませんが、人は五感を持って危険察知をしているため、これらの感覚が麻痺することは非常に危険です。
足に何かが触れた際には「蹴飛ばしたり、つまずいたりして転ぶかも?」と、注意しますが、それがなくなるためつまずいたり足に椅子などがぶつかったりということが、日常的に起こります。
温度を感じない不完全脊髄損傷は、熱いものに気付かず火傷を負いやすく、特にこたつやカイロなどによる低温やけどが懸念され、トイレの便座や電気毛布の使用も注意が必要になってきます。
さらに危険なのが、痛みを感じないタイプの不完全脊髄損傷です。
痛みは身体からの危険信号であるため、それを感じられなくなるというのは、時として命の危険を伴います。
痛みを感じないタイプの不完全脊髄損傷の患者に糖尿病の既往症があったのですが、痛みを感じないため糖尿病で足が壊死している事に気付かず、壊死部分が広がり足を切断するといったようなこともあります。
交通事故による不完全脊髄損傷の一番怖いケースは、患者本人が不完全脊髄損傷を負っている事に気付かないものです。
不完全脊髄損傷の箇所が微小であった場合、レントゲンやMRIなどでも発見しづらく、医師も不完全脊髄損傷を見落としてしまうことがあります。
また、患者本人も「普通に歩けているから、特に後遺症はない」と思い込んでしまい、後になってから身体の異変に気付くことがあります。
示談前に身体の異変に気が付き、医師の診察を受けられれば、交通事故の後遺障害認定もあり得るのですが、示談後であると加害者側に脊髄損傷の後遺障害と認めさせるのはかなり困難となります。
交通事故で受傷していないと思っても、『一度は医療機関で診察をする』、『痛みだけではなく、体に不調が無いか確認する』ということをしておく方が良いでしょう。
この記事を読まれた方にオススメの情報5選
脊髄損傷に限らず、後遺症の残る交通事故の怪我は、いつ症状固定をするかが非常に重要である。症状固定後は保険金が支払われ、治療費の補償が終了するため、時期を正しく見極めて対応するのが望ましい。
脊髄損傷の入院期間は、国が定めた規則により例外と認められない限り6カ月を超えると入院基本料の15%が自己負担になるため、ほとんどの人が6カ月以内に退院する。
交通事故の後日に脊髄損傷が判明しても、交通事故との因果関係の証明が難しいケースもあるため、弁護士に相談をした方が良い。
脊髄損傷の後遺障害等級認定が非該当になるケースには、客観性の無さや一貫性の無さなどの傾向が見られる。非該当の場合にもポイントをおさえた対応によって賠償金増額の可能性はある。
脊髄損傷を負うと自律神経の乱れが出ることがあり、それにより季節の変わり目や冬季に体調不良が出やすくなってしまう事もあるため、早期に示談を終えてしまう場合には注意が必要である。