脊髄損傷におけるライプニッツ係数の民法改正について
2000年4月1日の民法改正に伴い、ライプニッツ係数の見直しがされました。
『ライプニッツ係数』という言葉を聞いたことが無い方もいるかもしれませんが、交通事故の示談、特に脊髄損傷や死亡事故などにおいては極めて重要な係数になります。
『ライプニッツ係数』とは何かというと、交通事故などの人身障害事件における損害賠償で、長期に発生する介護費用や就労機会喪失や減少による逸失利益など、時間と関係する賠償金を一時金に換算するときに使う係数です。
永らくライプニッツ係数の利息は5%とされてきたのですが、昨今の低金利時代の情勢を踏まえて、2000年4月1日以降に発生した交通事故の損害賠償の計算には3%とした係数を使うように民法の変更がされました。
では、このライプニッツ係数が脊髄損傷の損害賠償請求にどうかかわってくるか説明していきます。
5%→3%の差は長期になるほど大きく
例えば、就業可能年数が20年で年収500万円の方が交通事故に遭い、脊髄損傷のために労働能力喪失率が100%あったのならば、500万円×20年=1億円の給料がもらえたはずなのに、交通事故によりもらえなくなったので、逸失利益として加害者側に1億円の請求ができます。
しかし、1億円が丸々一括支払われるのではなく、5%の複利運用で毎年500万円ずつ使っていき、ぴったり20年で無くなる金額が支払われます。
この際、複利計算には本来複雑な計算が使われるのですが、簡易に計算できるための係数がライプニッツ係数になります。
例えば、1億円支払われて5%の運用をしていけば、毎年500万円の利息が付くため、論理的には初めに支払われた1億円は全く減りません。
民法の損害賠償請求では『損害以上の損害賠償請求の責は負わない』ので、これでは加害者側が大きく不利になります。
そのため、20年分のライプニッツ係数12.460を年収の500万円に乗数計算した、6230万円が支払われます。
6230万円を1年目に500万円引き出し、残りの5730万円は5%で運用します。
次の年には5%の利息が付いて6016.5万円になっているので、500万円を引き出し、5516.5万円をまた5%で運用します。
これを繰り返すとちょうど20年目で無くなる、ということになります。
しかし、今回の民法改正で3%に変更されたため、ライプニッツ係数も大幅に変わり、20年の係数ならば14.877になりました。
500万円×14.877=7438.5万円ですから、5%の計算と比べると7438.5万円-6230万円=1208.5万円も多くなります。
脊髄損傷による就業可能期間の減少が長ければ長くなるほど、5%と3%の差は大きくなるため、非常に重要な係数であることが分かります。
また、脊髄損傷で介護が必要な場合には、介護費用の計算においてもライプニッツ係数がもちいられるため、脊髄損傷患者にとって極めて関係性の高い係数と言えます。
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交通事故で脊髄損傷となると、これまで通り仕事に従事できなくなる。すると、収入が減り、生活が金銭的に圧迫される状況になり得るため、欠かさず休業損害の請求を行うべきである。
交通事故が原因で脊髄損傷となったのに、加害者側からむち打ちなのではと言われたら、診断書や検査資料で脊髄損傷を立証して正当な賠償金を請求するべきである。
交通事故で負った脊髄損傷の示談を個人で保険会社と行うことは、不利な立場で行わなければいけないため、弁護士に依頼をして示談交渉をしてもらうとよい。
交通事故による脊髄損傷の裁判で保険金が高額な判決となるのは、弁護士が脊髄損傷に関する請求を正しく計算し直すからである。
脊髄損傷の症状は、交通事故発生からしばらくして現れることもあります。事故現場で自覚症状がなくても、警察を呼んで交通事故の報告をしましょう。