脊髄損傷で逸失利益が発生しなかった場合、請求はできない?
交通事故による脊髄損傷に対する示談の中で、保険会社と逸失利益に関して紛争が起こることがあります。
逸失利益とは「本来得られるはずであった利益を得られなくなった」ということなので、交通事故においては将来的な給料の減収を差します。
脊髄損傷は現在の医療技術では治療不可能とされているため、脊髄損傷による後遺症は一生の問題になります。
そのため、脊髄損傷の後遺症で収入が減少した場合には、交通事故の加害者もしくは加害者側の保険会社が逸失利益として支払うのですが、脊髄損傷の度合いが重く交通事故以前に勤務していた会社を退職(解雇)された場合でも、全額が支給されるとは限りません。
交通事故では後遺障害の重さに応じて「後遺障害等級」というランク付けがされます。
そのランクによって自賠責保険では一定の後遺障害慰謝料の上限と、逸失利益における労働能力喪失率が決まります。
一番症状の重い1級ならば労働能力喪失率は100%ですが、14級ならば5%となります。
つまり、同じ年収500万円の脊髄損傷患者でも、1級ならば全額の500万円が逸失利益として認められますが、14級ならば5%の25万円が逸失利益として認められるということになります。
逸失利益は現状に則したものになることも
脊髄損傷患者からすれば、収入が全くなくなったのに一部しか補填されないのは不条理に感じるかもしれませんが、仮に後遺障害等級8級で労働能力喪失率45%ならば、「年収275万円のところに勤務しなさい」というのが現状です。
もし反対に「腰から下の麻痺で車いすの生活になったけれども、もともとデザインの仕事で座り仕事だったから、年収の減少はない」という人はどうなるかというと、逸失利益を認めない保険会社がほとんどです。
判例がいくつかあるのですが、「給料の減額がない場合には逸失利益は認めない」というのが基本となるため、「元いた職場に復職して、給料の減額はない」といったケースでは、逸失利益が認められません。
ただしこれには例外もあり、「現在の収入は減少していないが、将来的な昇給や出世などにも支障がある」と認められた場合には、その分に関しての逸失利益が支払われることがあります。
もうひとつ、示談時には会社の退職を余儀なくされて、保険会社から逸失利益を受け取ったが、その後自営業で成功をおさめるなどして、年収が交通事故以前よりも増えた場合はどうなるかというと、示談後なので保険会社は逸失利益の返還を請求することができません。
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交通事故で脊髄損傷の逸失利益の計算には、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率が使われるが、労働能力喪失率の上昇が認められたり、全く認められないといったこともあり得る。
交通事故に遭い脊髄損傷を負って後遺障害が残った場合には、逸失利益が発生するが、被害者の職種などによっては、実情の損害とそぐわない逸失利益の額となることがある。
交通事故で脊髄損傷となり後遺症を負っても給料の減額等がない場合、逸失利益が認められないケースもあるため、弁護士に相談をして逸失利益の計算をしてもらうとよい。
交通事故における示談交渉での請求の権利は、交通事故が発生してから3年と決まっている。しかし、脊髄損傷のような重篤な後遺症がある場合、時効を算出する開始日が異なり、症状固定から3年間である。
脳の底部から背骨へと延びている太さ約1cmの神経である脊髄を交通事故などの外部からの衝撃で傷付け、さまざまな病状を発症するのが脊髄損傷である。