認知症患者が死亡事故を起こした場合、その責任の所在は?
2015年の国勢調査によると、日本国内の65歳以上の人口は3461万人で日本の総人口の27.3%に当たり、4人に1人が高齢者という「高齢化社会」です。
さらに少子化と寿命が延びることにより、十数年の間には1人の65歳以上の高齢者を3人以下の生産人口(20~65歳)にて支える年金体系となり、「超高齢社会」が加速すると言われています。
昨今では高齢者の自動車事故、特に死亡事故が大きく報道されていますが、人口比率からすれば交通事故の発生率は決して低くありませんし、さらに身体能力や判断能力の低下により、20代から50代の運転手と比べると事故となる確率は格段に高くなることも相まって、一部では「高齢者の運転=危険」とまで言われるようになっています。
そういった社会背景の中で特にクローズアップされているのが、認知症患者による死亡事故です。
認知症とは認知能力が低下する症状を差しますので、交通事故に巻き込まれる、もしくは死亡事故を起こす可能性が高くなります。
認知症患者の責任能力は?
死亡事故の死亡者が認知症患者の場合、運転手・歩行者どちらの立場であっても大きな問題があります。
交通事故の場合、どちらかが一方的に悪い、過失が100%ということは少ないです。
特に認知症患者は認知能力の低下から、「赤信号なのに信号無視して交差点に入る」「道路を逆走する」「踏切の遮断機が下りているにもかかわらず、踏切内に進入する」といった、正常な判断が出来ているのならばおおよそしないような行動をすることがあります。
そのため、認知症患者が交通事故、特に死亡事故を起こした場合には、その責任の所在を問われます。
認知症患者自身に責任があるのか、認知症患者の妻や子などの患者を保護・監督する立場にある者にまで責任が及ぶのかということです。
民法上、損害を与えた人が重度の認知症など「責任無能力者」の場合、本人が賠償責任を負うことはありませんが、その人の家族などが「監督義務者」として代わりに賠償責任を負うことになります。
一方で、世間の注目を集めた線路内で徘徊した認知症患者の死亡事故は、最高裁で「認知症患者の遺族が損害賠償をしなくてよい」と、鉄道会社が敗訴する判決がおりています。
しかしこれは、遺族の監督責任がないと裁判所が判断した上での判決ですので、遺族に監督責任があるとされると、民法通り監督義務者に当たる家族などが賠償責任を負うことになります。
もちろん、認知症患者自身に責任能力があるとされれば、損害賠償を患者自身の財産から支払わなければならないため、一律に「認知症患者が死亡事故の責任を負わない」とはなりません。
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死亡事故では、加害者と被害者遺族間で、過失割合でもめることが多く、わずかな過失割合の差で金額が大きく変わるため、紛争となることもある。
交通死亡事故の件数は直近30年では平成13年をピークに減少している。しかし、死亡者の高齢者の割合は上昇しており、加害者も高齢化している現状がある。
死亡事故であっても、歩行者に交通事故発生の原因があれば、過失割合は最大で7割にも及ぶ可能性があり、過失割合が大きければ損害賠償金が大幅に減額されることがある。
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