回復が難しい脊髄損傷における治療の目的や最新の研究とは
交通事故で脊髄損傷になった方の体験談を読むと、「交通事故に遭った当初は『いつかは回復して歩けるようになる』と信じていた」といった言葉が聞かれます。
脊髄の損傷レベルによっては、生活や趣味などある程度のことを自分でこなせる方もいますが、これは脊髄損傷が治療できたということではありません。
脊髄は再生能力の乏しい組織であり、現在の医療技術においては、一度傷ついてしまった脊髄を回復させることは出来ないとされています。
交通事故直後の治療では、損傷した脊椎を修復、安定させ、それ以上の損傷を防ぐこと、早期のリハビリ開始を目指すことを目的とします。
手術適応の場合、外傷による脊髄の圧迫を取り除く神経除圧術で痛みや麻痺を取り除いたり、脊髄に骨を移植して金属で固定・安定させる脊髄固定術を行うことで、さらなる損傷を防ぎます。
そのほか症状に応じて、薬物療法、注射療法、理学療法、運動療法などを組み合わせた保存的治療が行われます。
「どうせ麻痺した足は動かないのだから歩行訓練をしても無駄」と思うかもしれませんが、なかにはリハビリを繰り返すことで予想以上の回復をしたという事例もあります。
筋肉を衰えさせないためにも、脊髄損傷ではリハビリの継続が重要になります。
脊髄損傷の治療を目指す研究
これまでは、先述のように「損傷した中枢神経系は二度と再生しない」というのが定説でしたが、近年になって海馬の脳神経細胞が増殖することが証明されたり、iPS細胞の研究の進展によって、今後は脊髄においても再生の可能性があるのではないかと期待がもたれています。
2016年には、南カリフォルニア大学の研究チームが、バイオ医薬品を用いて脊髄損傷の患部修復を試みる実験的治療を行っています。
被験者となったのは、車の交通事故で頚椎に外傷を負い、首から下が麻痺していた21歳の男性です。
患部である頚髄に、幹細胞から作り出した特殊な細胞を注入して2週間後、被験者の状態に回復の兆しが現れます。
3ヶ月後には自力での食事、携帯電話操作、筆記、電動車いすの操作などが出来るようになり、C2~C4、C5~T1までの運動機能にある程度の回復が確認されました。
現在はまだバイオ医薬品による実験の検証段階ですが、今後の脊髄損傷回復への期待を高める事例として注目されています。
治療法の確立はまだ先のことかもしれませんが、生活の維持やリハビリのことをよく考え、慎重に事故対応するようにしましょう。
この記事を読まれた方にオススメの情報5選
脊髄損傷となった場合、体の傷が治癒し始めると早急にリハビリ計画が立てられ、リハビリをしていくことになる。麻痺をした部分であってもリハビリテーションの有用性がある。
尾骨の脊髄は他の脊髄よりも退化しており、尾髄の脊髄損傷より仙骨の脊髄損傷や尾骨の骨折による神経障害として取り扱われることが多い。
脊髄損傷でまれに上半身麻痺が起こることがある。珍しい症例のために脊髄損傷との因果関係に気付かない医師もおり、示談が不利になるケースもあるため、交通事故に詳しい弁護士に相談をするとよい。
脊髄損傷では麻痺がある部分に痛みやかゆみなどを感じる幻肢痛という症状が出ることが多くあるため、幻肢痛で日常生活に支障が出る場合にはその分を含めた損害賠償請求をした方が良い。
脊髄損傷を負ったからといって必ず後遺障害が出るとは限らない、しかし、不完全脊髄損傷の場合、後遺障害が出ても損傷個所がMRIなどで見つからないケースもあるので、専門病院で検査を受けるとよい。