事故で顔面部分の醜状は残存・・・逸失利益額を認める旨の回答があり示談成立となった事例
事例提供:弁護士法人リーガルプラス
【事例】
被害者は40代女性、職業は介護関係(看護師)でした。
事故により恥骨骨折、坐骨骨折、顔面擦過傷等の傷害を受け、治療を継続しました。骨折は癒合し後遺障害が残存しませんでしたが、顔面部分の醜状は残存し、後遺障害等級12級と認定を受けました。
弁護士が介入する前の示談提案は、慰謝料額等が裁判基準よりも低額である他、算定根拠が曖昧な逸失利益が提示された(約200万円)内容でした。
弁護士が介入し、理論上考えうる最大限の金額(逸失利益は症状固定時から67歳までの全期間に対応するライプニッツ係数を採用)を保険会社に提示しました。
担当者から、以下のような回答がありました。
「介入前の提示は、逸失利益を認めてほしいという被害者の意向を酌んだもの」
「その分、慰謝料等を裁判基準から相当減額している」
「逸失利益を争い、しかも他の費目を裁判基準となると難しい」
「逸失利益の提案は白紙にさせてもらう可能性がある」
弁護士から、「職業、醜状の位置、年齢等からすると、外貌醜状は減収につながる。したがって、逸失利益が認められるべきであり、また、外貌醜状は永久残存することから、症状固定時から67歳までの全期間に対応するライプニッツ係数を採用すべきである」と主張しました。
交渉は難航し、双方提示額が動かないまま数カ月が経過しました。
担当者とのやり取りの中で、本事案に近い事案に関する裁判例(昭和の時代)が見つかりました。
上記裁判例においては、被害者と類似した顔面醜状、職業、年齢等の女性について、労働能力喪失期間が10年、労働能力喪失率が14%であることを前提として逸失利益が算定されていました。
担当者から、上記裁判例に沿った逸失利益額を認める旨の回答があり、新たな示談提案がなされました。被害者に新たな示談提案の内容と経緯を説明したところ、ご納得いただきましたので、示談成立となりました。
【弁護士からのアドバイス】
記事提供者:弁護士法人リーガルプラス
近時の保険会社の傾向として、交渉段階では外貌醜状の逸失利益性を肯定しないことが見られます。その背景には、外貌醜状の逸失利益性を肯定する裁判例と否定する裁判例が混在し、事案により認められるかが異なることがあると考えられます。そのため、後遺障害の内容が外貌醜状であった場合、適切な解決のためには訴訟提起等の交渉以外の方針を選択するよう強いられることがあります。
早期解決の観点や、訴訟になじまない日本人の気質等からしますと、示談成立による解決はメリットが多くあります。弁護士としては、示談成立による解決の道を模索して、裁判例に示された事情(被害者の性別、職業、年齢等)から可能な限りの主張を保険会社に対して行うことが適切です。
本件は、被害者側の有利な事情が多かったこと等から、交渉段階において外貌醜状の逸失利益性を認めてもらえた非常に特殊な事案であるため、ご紹介させていただきます。