駐禁場所に停車して追突された死亡被害者の過失が0とされ、祖母にも慰謝料が認められた事例
事例提供:重次法律事務所
【事例】
1 事故概要
居眠り運転した加害車(貨物)が駐車禁止場所に停車中の被害車に追突、被害車前方に居た被害者が死亡した交通死亡事故。相続人でない両親から依頼があった。過失相殺が否定され(加害者は3割を主張)、両親・祖母の固有の慰謝料や葬儀費用、遅延損害金が認められた事例(公刊物記載判決後、判決金額+遅延損害金で和解が成立した事例)。
2 事案の詳細
加害者が中型貨物自動車を運転中、前方にいた被害車両の後部に自動車前部を衝突させ、被害車両前方にいた被害者を被害車両により礫過した。
この事故により、被害者は、頭部裂傷・骨盤骨折等の傷害を負い、搬送先の病院で死亡した。
本件では、亡くなった被害者の相続人と父母が、それぞれ別の弁護士に委任したため、訴訟提起前の示談交渉が難しく、訴訟提起に至った。
当事務所は、父母から依頼を受けたので、遺族固有の慰謝料を中心とする請求となった。
訴訟において、過失相殺と損害額が争点となった。特に、過失相殺については、加害者側が以下のような主張を行った。
①被害車両が停車していた場所が駐車禁止であったこと、②停車していた被害車両が無灯火であった。これらの事実を以て、加害者側は、過失相殺を主張し、被害者の過失を少なくとも三割程度と主張した。
3 裁判所の判断
本件事故は、居眠りをして前方注視ができない状態になったにもかかわらず運転を中止せず継続した加害者の重大な過失により惹起された。
本件事故時、被害車両は、第1車線の左寄りの位置にあったこと、本件道路は片側2車線の道路であり、第2車線の通行は全く妨げられていなかったと認められること、本件事故時の交通量はそれほど多くはなかったことが窺われることなどに照らすと、被害車両の位置が他の交通の妨害となり、事故発生の危険を高めたとまではいえないから、被害車両の駐停車方法が不適切であったとは認められない。
本件事故現場手前50.3mの地点においては、被害車両の後部がはっきりと確認できたと推認され、加害車両から前方の被害車両を発見することは容易であったと認められ、「高速自動車国道及び自動車専用道路以外の道路において後方50mの距離から当該自動車が明りょうに見える程度に照明が行われている場所に停車し、若しくは駐車しているとき」(道交法施行令18条2項)に該当するから、この点につき被害者に過失を認めることはできない。
被害車両が駐車禁止場所に駐車していた可能性が否定できないことを考慮しても、なお、加害者の過失が著しく大きい。これらの点を総合考慮すると、本件事故の過失割合は被害者・0割、加害者・10割とするのが相当である。
固有の慰謝料として、被害者の父母それぞれ100万円、被害者の祖母20万円とするのが相当である。
【弁護士からのアドバイス】
記事提供者:重次法律事務所
1 本事案は、公刊物に掲載されている判決の事案です(大阪地方裁判所平成27年1月16日判決・交民集68巻1号60頁)。
本件は、交通事故で死亡した息子さんをなくされたご両親からご依頼をいただき、訴訟を提起した事案です。
依頼者のご両親は、被害者の相続人ではなかったので、遺族の固有の慰謝料と、実際に支出した葬儀費用を請求しました。
死亡事故では、被害者の相続人が請求権者となりますが、相続人ではない親族も固有の慰謝料を請求することができる場合があります。
2 本件では、過失相殺が大きな争点になりました。過失相殺に関しては、別冊判例タイムズの「民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準」をベースにして判断がなされます。本件の事故を「民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準」に機械的に当てはめると、過失割合は、最大で、被害者:加害者=3:7になります。
訴訟において、現場の状況、視認状況、道交法の規定、加害者の居眠り運転という重大な過失があったことを詳細に主張し、被害者の行為が本件の事故を惹起したわけではないと主張しました。
その結果、判決では、被害者の過失は0と認定してもらうことができました。
3 本件事故後に亡くなった被害者の祖母の固有の慰謝料を被害者の母が単独相続したとして、祖母の固有の慰謝料も請求しました。民法711条が近親者の慰謝料請求について規定していますが、祖母は請求権者として規定されていません。そのため、訴訟では、被害者が初孫で生き甲斐であり、心のよりどころであったこと、生前、頻繁に交流があり、毎年のように家族旅行に行くなどしていたことを主張し、父母、配偶者及び子と実質的に同視しうべき身分関係が存在するので、民法711条が類推適用されると主張しました。
判決では、父母の固有の慰謝料各100万円、祖母の固有の慰謝料20万円のがそれぞれ認められました。
死亡慰謝料については、近親者分を含むとされており、本件の場合、損害賠償基準に照らすと、慰謝料は2800万円になります。しかし、判決では、相続人の慰謝料を合わせると、2800万円を上回る3020万円と高額の慰謝料が認められました。
4 なお、葬儀費用については、損害賠償基準の150万円を遺族が実際に支出した金額で按分するという判決になりました。