横断歩行中の自転車の過失を10%から5%に減らすことができた死亡事故の事例
事例提供:吉田泰郎法律事務所
【事例】
被害者の方は、70歳の女性でした。交通事故の現場は、通い慣れた自宅の近くの横断歩道でした。被害者の方は、いままで何千回と、その横断歩道を自転車で横断していました。
交通事故が発生したとき、もちろん、被害者は、横断歩道を青信号であることを確認して、自転車で横断歩道を横断していたのです。
ところが、このとき交差点に、対向車線から右折して進入してきた自動車が一台あったのです。
運の悪いことに、被害者の方からみると、左斜め後ろ、つまり、被害者が見ることのできない死角から、加害者の運転する自動車が進んできていました。
被害者は、全く見えない角度から、自動車に衝突され、アスファルトの地面に頭を強く打って死亡しました。
弁護士は、被害者の遺族のお話をお聞きしました。
さいわい、遺族の方は、理性的な方々であり、取り乱したところはありませんでした。
しかし、遺族の方が強く主張していたことがあります。
「この事故で、被害者に過失があると言われても納得できません」
ということです。
交通事故の実務では、横断歩道を青信号で徒歩で横断している「歩行者」には過失はありません。
しかし、横断歩道で青信号で横断している「自転車」には10%程度の過失を認めるのが通常です。
「自転車」は、法律上は軽車両ですので、「歩行者」とは違う、というのが、その理由です。
しかし、たしかに、横断歩道を青信号で「自転車」で横断することが、
「なにか悪いことなのですか?注意されるべきことですか?」
と、聞かれますと、弁護士も、返す言葉が、なかなかありません。
たしかに、世間一般では、青信号の横断歩道を自転車で横断することは普通にあるでしょうし、それが悪いことだとは認識されてはいないでしょう。
「わかりました。なんとか、過失割合についても、がんばってみましょう」
弁護士は、今回の交通事故をくわしく検討することにしました。
死亡事故ですので、刑事事件の記録がくわしく残っています。
弁護士が、警察の作成した交通事故の現場の図面を見て感じたのは、
「事故のあと、被害者の身体が、ずいぶんと、はね飛ばされていないか?」
ということです。
被害者の身体が、大きく飛ばされた、ということは、事故の瞬間の加害者の自動車の速度が速かったのではないか、と思われます。
刑事記録を検討した結果、弁護士がたどりついた結論としては、
「加害者の運転する自動車は、事故の瞬間、時速50キロメートル以上を出していた」
ということでした。
ここで、加害者の運転する自動車が「右折」をしていたことが重要になってきます。
信号のある交差点に進入する場合、右折する自動車は
「徐行しなければならない」
ということが、道路交通法で決められているのです。
「徐行」とは、いつでもすぐに止まれる速度、のことをいいます。
時速50キロメートルを出しているのであれば、徐行義務に違反することはあきらかです。
「これだ」
と、弁護士は、ひらめきました。
裁判にうってでたところ、裁判所は、弁護士の主張を認めて、
「被害者の過失は5%だけとする」
という判決を出しました。
被害者の過失がゼロにならなかったのは残念ですが、遺族の方も、
「弁護士さんが、がんばってくれたおかげで、亡き母に報告できる」
と喜んでくれました。
【弁護士のアドバイス】
記事提供者:吉田泰郎法律事務所
死亡事故のような大きな被害が出た事件の場合には、過失割合についても、あえて裁判で争うこともひとつの考えです。
弁護士が知恵をしぼって考え抜けば、なんらかの突破口がひらかれることもあるように思います。
死亡事故の場合には、亡くなった被害者の名誉も関係してくるところもあります。
保険会社の主張に納得できないときには、弁護士にご相談ください。