被害者の過失3割→被害者の過失ゼロになった8000万円獲得事例
事例提供:吉田泰郎法律事務所
【事例】
20歳代の男子大学生が被害者でした。事故は、夜間の幹線道路で発生しました。被害者の男性は、大学の新入生歓迎会の帰りに、つい駅への近道をするために、片側4車線の道路を、ななめ横断してしまいました。横断歩道のない場所でした。
加害者の運転していた車両は、黒いワゴンタイプの車両でした。夜間の黒い車両は、まるで、闇に溶け込むように、自動車の存在を消していました。
交通事故は一瞬で発生し、被害者は即死でした。
被害者の家族の悲しみは、どれほどであったでしょう。
ただ、法律的に、冷静に考えると、夜間に幹線道路を歩行者が横断していたというケースでは、被害者側にも3割程度の過失があると言われる可能性がありました。
しかし……
「こちらは死んでいるのに、過失があると言われても納得できません」
遺族の方の、強い希望でした。
死亡事故の遺族の感情としては、むしろ、当然のことかもしれません。
死亡事故を数多くあつかってきた弁護士としては、そういう被害者の感情もふくめて、おつきあいをしないといけません。
そうでなければ、「被害者側の」弁護士とはいえません。
「お気持ちは、大変によくわかります。私も弁護士として、被害者の過失を少なくできるように、ちからを尽くしましょう」
遺族の気持ちに対して、弁護士として正面からこたえようと思いました。
被害者のお父さんは、感情が今にもあふれでそうな表情で、頭を下げられました。
「おねがいします。無念を……」
はらしてください、という、その一言が、契約書よりも強い、依頼者と弁護士との紐帯となったのです。
客観的には、被害者側にも落度があったケースではありますが、それだけであきらめることはできません。
刑事事件の事件記録を、丁寧に調べていくと、加害者には、大きな落度があることがわかってきました。
まず、加害者は飲酒運転をしていました。また、おそらく、時速50キロ制限の道路を、時速70キロ程度で走行していたと思われました。
さらに、加害者は、事故を発生させたあと、現場から逃走しており、道路交通法上の被害者の救護義務違反もありました。
「ここまで悪い加害者であれば、勝負はわからないかもしれない」
光明が見えてきました。
加害者の落度が大きすぎる場合には、被害者の多少の落度は問題とならないという主張が可能です。
弁護士は、加害者と交渉をするつもりもなかったので、準備に十分に時間をかけてから、いきなり裁判を起こしました。被害者の過失をゼロにするためには、裁判で勝訴判決をとるしかなかったのです。
起こしてからは裁判は順調に進み、1年ほどで勝訴判決となりました。
被害者の過失はゼロ、損害賠償の総額は約8000万円という画期的な判決でした。
被害者のお父さんとの約束は果たしました。
被害者は帰ってきませんが、その名誉は保たれたと思いました。
【弁護士のアドバイス】
記事提供者:吉田泰郎法律事務所
交通事故の過失割合というものは、ある程度、定型化されています。年間数十万件も発生する交通事故をさばいていくためには、定型化もやむを得ないところではあります。
ただ、死亡事故のような、被害感情が大きい事故の場合には、定型化された過失割合に対して、あえて、異議を出すことも必要かもしれません。
定型処理をするだけであれば、やっていることは保険会社と同じです。
被害者とともに泣き、被害者とともに喜ぶ、被害者専門弁護士は、死亡事故の場合には、特別にがんばらなければなりません。
定型にさからうことは、しんどいことではあります。
しかし、そのしんどいことができなければ、全国交通事故弁護団に選ばれた弁護士とは言えないのです。